平成13年8月10日提起した、「伊予三島調停国賠訴訟」についての概要、経過等について記載しています。
平成18年3月24日に判決が言い渡され、原告の請求は棄却されましたが、実質勝訴と言える「付言」を勝ち取りました。


第1 事件の経過について   
    東京地方裁判所平成13年(ワ)第17003号
原告 母(X1),長女(X2),次女(X3),三女(X4)
被告 国
    担当民事第40部
    訴訟提起 平成13年(2001年)8月10日
判決言渡し 平成(2006年)18年3月24日
第2 事案の概要
1 原告らについて
 原告らは,伊予三島市(現四国中央市)在住の母と3人の娘です。
母(X1):昭和17年(1942年)生まれ 本件調停当時は56歳
長女(X2):昭和47年(1972年)生まれ 本件調停当時は25歳
次女(X3):昭和49年(1974年)生まれ 本件調停当時は23歳
三女(X4):昭和51年(1976年)生まれ 本件調停当時は22歳

2 本件調停について
 本件訴訟において問題となっている調停は,X1及びX4が,平成10年7月に伊予三島簡易裁判所(現四国中央簡易裁判所)に申し立てた債務弁済協定調停です。X2,X3は調停を申立てていません。

  なお,当時は,まだ「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(「特定調停法」)が施行されていませんでした(同法は平成12年2月17日施行です。)。

(1)X1が申し立てた調停について
 申立て 平成10年7月
 相手方 サラ金,保証会社等8社
*このうち,本件訴訟において問題となっているのは,サラ金6社及び保証会社1社についてです。
 以下,サラ金6社と保証会社についてのみ述べます。
ア サラ金6社について
 本件調停申立て時において,サラ金6社から請求されていた約定残元金は合計約171万円でした。
 本件調停手続の結果,17条決定又は調停によりX1が負担されられた債務の元金合計は約170万円でした。ほぼ,約定残元金と同額の債務を負担させられています。
しかし,本件調停手続において,サラ金各社から調停委員会に提出された取引履歴に基づき利息制限法による引き直し計算をすると,6社中3社は過払い(合計約66万円)となっており,残り3社の残債務元金は合計約26万円でした。

  しかも,上記引き直し計算は,あくまで,サラ金各社が調停委員会に提出した取引履歴に基づくものですが,サラ金各社から提出された取引履歴の中には,明らかに中途からの取引のみを記載した履歴も含まれていました(過払分3社のうち2社,残り3社のうち1社)。したがって,取引履歴が十分に開示されていれば,過払金額はさらに高額なものが発生していることが判明し,残債務もさらに少額であることが判明することは明らかな状態でした。

  X1は,本件調停手続後,17条決定き,すでに過払いであったことが明らかなサラ金3件に対しても,約3年間で合計50万円以上の支払を強いられました。

イ 保証会社について
 X1は,亡き夫(平成2年死亡)が銀行から借入れていたことによる債務(相続債務)についても,調停を申し立てていました。なお,夫が亡くなる前に,すでに,保証会社から代位弁済を受けていたため,調停の相手方は保証会社となっています。
なお,X1は,もともと,自分が銀行から借入れた債務もあり,これについても調停を申し立てていましたが(これについても代位弁済を受けており,調停の相手方は同じ保証会社となっています。),本件で特に問題となるのは相続債務の方であり,以下,相続債務についてのみ述べます。
 夫の死亡したとき,相続債務の残元金は約116万円でした。
 また,法定相続人は配偶者であるX1,子であるX2,X3,X4と夫と前妻の子の5人でした。法定相続分は,X1が1/2であり,X2,X3,X4,前妻の子が各1/8でした。
金銭債務は,相続開始時に当然に分割されるので,相続開始時に各人が相続する債務の残元金はX1が約58万円,X2,X3,X4,前妻の子が各約14万5000円となるはずでした。
 そして,本件調停申立てまでに,X1のみが合計約47万円を返済していました。したがって,X1の残債務元金は約11万円となるはずでした。
しかし,17条決定では,相続債務の残元金を69万円として,(1)X1に単独で全部負担させる(2)X2,X3,X4に各1/3について連帯保証させるといった内容が定められました。
 X1の意思は,(1)前妻の子は付き合いが全くないため,債務も負担させたくない(2)X2,X3,X4には債務の負担をさせたくない(3)相続債務は自分が支払っていくというものでした。この点,(3)はあくまで,(2)を条件とするものであり,X2,X3,X4には債務を負担させる意思は全くありませんでした。
 X2,X3,X4は申立人ではありませんでしたが,利害関係人として「参加」したことにされてしまいました。X2,X3,X4は,法定相続分を超えて債務を負担する意思はなく,調停委員会から直接意思を確認させることも一切ありませんでした。
なお,X2,X3,X4が分割して相続した債務については,本件調停時にはすでに5年以上支払いがなされたおらず,消滅時効が完成していたはずであり,この点についても,X2,X3,X4は負担する必要がない債務を負担させられたことになります。

(2) X4が申し立てた調停について
 申立て 平成10年7月
 相手方 サラ金会社等14社
*このうち,本件訴訟において問題となっているのは,サラ金1社についてです。
 以下,当該サラ金についてのみ述べます。
 X4は夫とともに,債務弁済協定調停を申し立てていました。
 夫も同じサラ金から借入れをしており,その債務についても調停を申し立てていました。
 本件調停で成立した調停の内容は,X4について約45万円の支払義務を認め,夫について約45万円の支払義務を認め,それぞれ,相互に連帯保証をするというものでした。
 本件調停申立て時において,X4が当該サラ金から請求されていた約定残元金約45万円でした。
 本件調停手続の結果,調停によりX4が負担されられた債務の元金合計は約45万円でした。約定残元金と同額の債務を負担させられています。なお,サラ金から調停委員会に提出された取引履歴に基づき利息制限法による引き直し計算をすると,残債務元金は約32万円です。
 また,夫の調停申立て時において,当該サラ金から請求されていた約定残元金約45万円でした。
 本件調停手続の結果,調停によりX4が負担されられた債務の元金合計は約45万円でした。約定残元金と同額の債務を負担させられています。なお,サラ金から調停委員会に提出された取引履歴に基づき利息制限法による引き直し計算をすると,残債務元金は約32万円です。
 本件調停手続において,X4が,夫の債務を連帯保証することについては意思確認をされていませんでした。
第3 訴訟の経過について
1 平成13年8月10日 訴訟提起 
 東京地方裁判所平成13年(ワ)第17003号

(1) 請求内容
 ア 請求の根拠
(ア) 訴訟提起当初
 (1) 調停又は17状決定で支払いが決められた金額と,法定の残金との差額
調停又は17条決定により,本来負担すべき債務額を超えて,過大に債務を負担させられたという主張です。
 (2) 慰謝料
 (3) 弁護士費用
(イ) 現在
 (2) 慰謝料
 (3) 弁護士費用
*(1)については,本件調停事件の相手方の一部との間で,本件調停事件による17条決定が無効であることを前提とした和解が成立したため,撤回しました。

イ 請求額
 *(内訳)の(1)〜(3)は,ア記載の(1)〜(3)に対応

(ア)訴訟提起当初
a X1:390万9669円
(内訳)
(1)170万9669円 (2)200万円 (3)20万円
b X2:110万円
(内訳)
(1)56万8809円 (2)100万円 (3)10万円
c X3:110万円
(内訳)
(1)56万8809円 (2)100万円 (3)10万円
d X4:160万円
(内訳)
(1)114万6441円 (2)150万円 (3)10万円

(イ)現在
a X1:220万円
(内訳)
(2)200万円 (3)20万円
b X2:110万円
(内訳)
(2)100万円 (3)10万円
c X3:110万円
(内訳)
(2)100万円 (3)10万円
d X4:160万円
(内訳)
(2)150万円 (3)10万円

2 平成17年10月17日 原告本人及び証人尋問
 松山地方裁判所において,原告本人4人と裁判所書記官の尋問が行われました。
 原告らは,本件調停を担当した裁判官の証人尋問が必要不可欠である旨を主張し,一時は,本件訴訟を担当する裁判所もこれに前向きな姿勢を示していました。
 しかし,被告が,担当裁判官(観音寺簡易裁判所にて執務中)について,病気療養中であり,ストレスを与えることは好ましくないため「証人尋問を実施することは不可能」との意見を出したため,証人採用は見送られました。
 また,被告は,担当裁判官を証人尋問に出頭させないのみならず,陳述書の作成も,書面による尋問の実施についても頑なに拒否をしました。

3 平成18年3月24日 第1審判決言渡し
第4 第1審判決について
 *詳細は,PDFファイルをダウンロードして参照して下さい。(後日掲載いたします)

1 判決の内容
(1)主文
原告の請求をいずれも棄却する。

(2)判断の要旨
ア 民事調停手続において,裁判官又は民事調停委員による誠実な判断とは認められないような不合理な調停を成立させ又は17条決定をしたときは,国家賠償法上違法な行為として,国の損害賠償責任が肯定される。
  調停又は17条決定に調停無効確認訴訟等を提起するなどの不服申立てによって是正されるべき瑕疵が存在することを国家賠償法1条1項の責任成立の要件とすべきではない。
イ サラ金事案について(X1,X4について)
本件では,裁判官及び調停委員は,みなし弁済の要件の検討についてはフリーパスに近いものであり,以前の取引についても,熱心に提出要求をしなかった上,債務者に対し必要な説明をしていないものであり,裁判官及び調停委員の判断には多大な問題があると認めざるを得ない。
しかし,破産を避けることを望んでいるX1,X4の経済的状況の現実的解決のためは,調停を是非とも成立させる必要があったものであり,裁判官及び調停委員の判断等をもって,裁判官又は調停委員による誠実な判断とは認められないような不合理な裁判をした場合に当るものとまで認めることはできない。
ウ 保証会社事案について
調停委員会は,X1に対し,娘らが利害関係人として調停に参加してもらうよう娘らと相談するよう話し,X1はそれ承諾したものであるから,調停委員会が娘らの意思を電話等で確認しなかったことや,主債務者である母と連帯保証人候補者である娘らとの間に利益相反が生ずる可能性があることを併せ考慮しても,娘らに連帯保証債務を負担させたことについて,裁判官又は調停委員による誠実な判断等とは認められないような不合理な裁判をした場合に当るものと認めることはできない。
エ X4と夫の連帯保証について
X4と夫が夫婦であったことからすると,裁判官及び調停委員が,夫婦間で連帯保証する旨のサラ金の要求を取り次ぎ又はそのようにX4を説得したこと及び夫の債務について連帯保証する義務はないことを説明しなかったことをもって,裁判官又は調停委員による誠実な判断等とは認められないような不合理な裁判をした場合に当るものと認めることはできない。

(3)「付言」の要旨
 本件当時の社会の意識で判断しても,裁判官らの行為については,少なくとも不当であるとの批判が当てはまる。特定調停法施行後の現時点における社会の意識に基づき判断すれば,裁判官らの行為については,国家賠償法上違法であるとの見方も成り立ちうるような大いに不当であるとの批判が当てはまる。
 伊予三島簡裁(現四国中央簡裁)は,改めて簡易裁判所の果たすべき使命に思いを致し,民事調停の改善に努めることを希望する。

2 本判決に対するコメント(原告弁護団から)
 本判決は,被告の責任を否定したものであって,その結論は不当なものといわざるを得ません。
 また,もともと債務を負担していない親族を連帯保証人にさせることについては,裁判所による直接の意思確認がなくとも,主債務者を通じた意思確認で足りるとするなど,その判断に問題がある点も否定できません。
 もっとも,本判決では,本件裁判官らの行為,特に,利息制限法の適用については,「多大な問題がある」「大いに不当である」など,厳しく非難している点は一定の評価できるものと考えられます。
 特定調停法施行(平成12年2月17日)後の現時点においても,同じような行為が繰り返された場合には(いまだに,そのようなケースが散見されている),本判決に照らしても,十分に国家賠償法上違法と評価される可能性もあります。
 本判決における指摘は,伊予三島簡裁(現四国中央簡裁)に限られるものではなく,全国各地の簡易裁判所においても,本判決を真摯に受け止め,民事調停の改善に努めるべきであると考えます。
声明(平成18年4月8日 全国クレサラ・商工ローン調停対策会議)
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